CyberFix Note
防御・ハードニング

ランサムウェアに強いコールドバックアップ媒体の選び方

対象の目安: 個人や小規模事業者でバックアップを見直したい人 / 入門

アオイ防御・運用担当
・ 約14分で読めます
ランサムウェアに強いコールドバックアップ媒体の選び方

ランサムウェアに感染すると、暗号化の被害は感染した端末からアクセスできる範囲に広がります。常時つないだままの外付けHDDやNAS、同期しているクラウドフォルダも巻き込まれ、頼りにしていたバックアップごと暗号化されることがあります。そこで効いてくるのが、書き込んだあとにネットや端末から物理的に切り離して棚にしまう、コールドバックアップという考え方です。この記事は、個人や小規模事業者でバックアップを見直したい人に向けて、取り外して保管できる保存媒体の選び方を整理します。

先にお伝えしておくと、コールド媒体は単体で万能なわけではありません。3-2-1ルールの一部として、複数世代や複数媒体、遠隔地保管と組み合わせてはじめて意味を持ちます。読み戻せるかを確かめる復旧テストをしなければ、保管しているだけで安心はできません。なお本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。紹介する製品の効果や適合性を保証するものではなく、最終的な購入判断はご自身の利用環境に照らしてお願いします。詳細は広告・アフィリエイトについてをご覧ください。

なお、この記事は自分や自組織が正当に管理するデータのバックアップを対象にした情報です。他者のシステムやデータを許可なく操作する行為は不正アクセス禁止法などに触れる可能性があるため、対策は自分の管理下にある機器とデータに限って行ってください。

コールドバックアップがランサムウェアに強い理由

対策を考える出発点として、なぜ取り外して保管する媒体が有効なのかを押さえておくと選びやすくなります。理由は、ランサムウェアの被害が届く範囲にあります。

IPAの資料によれば、ファイル暗号化型のランサムウェアに感染すると、被害は感染した端末だけでなく、その端末がアクセスできる同一ネットワーク上のファイルサーバや、接続している記録媒体にも及びます。つまり、常時つないだ外付けHDDや、いつでも書き込めるNAS、端末と同期しているクラウドフォルダは、感染すればバックアップごと暗号化される可能性があります。

これに対してコールドバックアップは、書き込みが終わったら媒体を取り外し、ネットや端末から切り離して保管します。攻撃者の手が届く経路から物理的に外れているため、暗号化の被害から隔離できます。IPAも、バックアップに使う装置や媒体はバックアップ時のみパソコンと接続することを勧めています。書き込みのときだけつなぎ、あとは棚にしまうという運用そのものが、ランサムウェアに対する隔離になります。

IPAの資料では、外付けHDDやUSBメモリを端末に常時接続しているとバックアップしたファイルも暗号化の対象になるため、バックアップに使う装置や媒体はバックアップ時のみパソコンと接続することが望まれる、と説明されています。あわせて、一度データを書き込んだあとは書き換えができない光学メディアのようなタイプであれば、パソコンに接続していても問題はないと記されています。

コールド保管に向く保存媒体の種類

取り外して保管する運用に向く媒体は、大きく二つの系統に分けて考えると整理できます。上書きされにくさと容量のどちらを取るかで、向く媒体が変わるためです。

一つ目は追記型の光学メディアです。BD-RやDVD-Rは一度書き込むとその領域を書き換えられないライトワンス方式のため、上書きや暗号化に強く、棚に保管しておけば読み出し専用の記録として残せます。前掲のIPA資料でも、書き換えができない光学メディアはパソコンに接続していても問題はないとされており、この上書き耐性がコールド保管に向く理由です。特に長期保存を狙うなら、記録層に金属系の素材を使ったM-DISCという選択肢があります。ただし光学メディアは一枚あたりの容量が小さく、写真や動画をまとめた大容量データには枚数がかさみます。書き込みには対応した外付けのBlu-rayドライブやDVDドライブが必要で、M-DISCへ書き込むにはM-DISC対応のドライブが要る点も確認しておきます。

二つ目は、使うときだけつなぐ外付けHDDやSSDのコールド運用です。容量あたりの単価が安く、数テラバイト級の大容量を一台にまとめられるため、光学メディアでは枚数が多くなりすぎる用途に向きます。ただし、書き込みが終わったら必ず取り外して保管するという運用を守らないと、常時接続と変わらず暗号化に巻き込まれます。磁気や電子的な劣化で数年後に読めなくなることもあるため、一台だけに頼らず複数台でローテーションする前提で考えます。

選ぶときに見る六つの軸

媒体の系統を踏まえたうえで、実際に選ぶときは次の軸を見ていくと比べやすくなります。

見るポイント
上書き耐性ライトワンスで書き換えられないか、取り外して隔離できるか
容量と必要枚数保存したいデータ量に対して何枚や何台になるか
長期保存性何年の保管を狙うか、M-DISCなど長寿命の記録層か
書き込み速度と対応ドライブ書き込みにかかる時間、M-DISCや対象規格に対応したドライブか
書き込み後の検証書き込んだデータを読み戻して照合(ベリファイ)できるか
保管性棚やケースで保管しやすいか、耐火や防水のケースに収まるか

上書き耐性は、ランサムウェア対策として最初に見たい軸です。ライトワンスの光学メディアは書き換えられないぶん安心して棚に置けます。容量は、写真や動画が中心なら大容量の外付けHDDが現実的で、書類など更新頻度の低いデータなら光学メディアで足ります。長期保存性を重視するならM-DISCのような長寿命媒体を、書き込み速度や対応ドライブは手持ちの機材で書けるかを確認します。書き込み後の検証は見落としがちですが、読み戻せない記録は無いのと同じなので、ベリファイのしやすさも軸に入れておきます。保管性は、耐火や防水のケースに収めてオフサイトに置けるかまで含めて考えます。

M-DISCと長期保存の実際

長期保存を狙うときに候補になるM-DISCについて、期待できる点と現実的な限界を分けて押さえておきます。ここを混同すると、保管しておけば永久に安心だと取り違えてしまいます。

I-O DATAの解説によれば、M-DISCは記録膜に金属系の素材を使い、レーザーで物理的にくぼみを刻んで記録する追記型のメディアです。一度記録するとデータが消える心配がなく、長期の保管に向くとされています。BD-RやDVDと同じISO標準のフォーマットを使うため、対応するドライブがあれば読み出せます。長期保存を狙う設計になっている点が、通常の記録型メディアと違う特徴です。

一方で、長期保存の数値は一定の条件下での試験や推定に基づくものであり、実際の寿命は保管環境に左右されます。高温多湿や直射日光、傷や汚れは劣化を早めます。だからこそ、直射日光を避けた冷暗所でケースに入れて立てて保管し、数年ごとに実際に読み出せるかを確認する運用が欠かせません。媒体の長寿命性能に頼り切るのではなく、定期的な読み出し検証と組み合わせて初めて長期保存が成り立ちます。

I-O DATAの解説では、M-DISCは記録膜に金属系の素材を使い、レーザーで物理的なくぼみを刻んで記録する追記型のメディアで、一度記録するとデータが消える心配がないと説明されています。ISO化された国際標準フォーマットを用い、100年以上の保存が可能とされる一方、この数値はメーカーの試験データに基づくものとして注記されています。

あわせて読みたい

バックアップの3-2-1ルールが守る障害とその仕組み

大容量が必要なときの取り外し運用

写真や動画のように容量の大きいデータでは、光学メディアだと枚数が増えすぎて管理が煩雑になります。この場合は外付けHDDやSSDを取り外し運用でコールド化する方法が現実的です。運用の勘所を押さえておきます。

基本は、書き込みが終わったらケーブルを抜いて棚やケースにしまい、次にバックアップするときだけつなぐという流れです。つなぎっぱなしにしないことが隔離の条件なので、書き込みが終わったら必ず取り外すという運用を徹底します。加えて、一台だけに依存すると、その一台が故障したときに復旧できません。複数台を用意して交代で使うローテーションにしておくと、ランサムウェアだけでなく機器の故障にも備えられます。IPAも、バックアップに使う装置や媒体は複数用意することを勧めています。

誤ってバックアップ用のHDDをつないだまま感染すると、そのHDDも暗号化されます。取り外し運用は人の手順に依存するため、書き込み後に抜き忘れないよう、作業の締めに取り外しを組み込む習慣が安全側に働きます。

注意

コールド媒体は単体では万能ではありません。ライトワンスの光学メディアでも、書き込み時点で既に暗号化されたファイルを保存してしまえば復旧に使えません。取り外し運用の外付けHDDは、接続したまま感染すれば巻き込まれます。3-2-1ルールに沿って複数世代と複数媒体と遠隔地保管を組み合わせ、定期的に実際へ読み戻せるかを試す復旧テストをして、初めてバックアップとして機能します。

製品タイプ別の選び方

ここまでの軸を踏まえ、コールドバックアップをそろえるときの代表的なタイプを整理します。特定の型番を断定するより、用途に合わせてタイプで選ぶほうが失敗しにくくなります。仕様や在庫は購入前に販売ページで確認してください。

M-DISC対応の外付けBlu-rayドライブ

広告
M-DISC対応の外付けBlu-rayドライブ

追記型の光学メディアやM-DISCへ書き込むための外付けドライブです。M-DISCへ記録するにはM-DISC対応と明記されたドライブが必要なので、対応の有無を仕様で確認します。ノートパソコンで使うならUSBバスパワーで動くか、書き込み後にベリファイができるかも見ておくと安心です。仕様や在庫は購入前に販売ページで確認し、効果や適合性を保証するものではありません。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

M-DISCなどの長期保存対応の追記型メディア

広告
M-DISCなどの長期保存対応の追記型メディア

書き込んだあとに棚保管するライトワンスのメディアです。長期保存を狙うなら金属系の記録層を持つM-DISCが候補になります。保存したいデータ量に対して容量あたり何枚必要かを見積もり、書き込み後は読み戻して照合し、直射日光を避けた冷暗所で保管します。仕様や在庫は購入前に販売ページで確認し、効果や適合性を保証するものではありません。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

メディアの耐火や防水の保管ケース

広告

書き込み後のディスクや外付けHDDを火災や水濡れから守る保管ケースです。オフサイトに一部を預けるのが難しい個人や小規模事業者が、まず手元の保管性を高めたいときに向きます。対応する温度や耐火時間、収まる媒体のサイズを仕様で確認します。仕様や在庫は購入前に販売ページで確認し、効果や適合性を保証するものではありません。

※価格・在庫は変動します。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。

あわせて読みたい

ランサム対策に効くバックアップ機器(NAS)の選び方。隔離とスナップショットで復旧力を残す

保管と運用で押さえること

媒体をそろえたら、保管と運用のしかたで守れる範囲が決まります。ここを詰めておくと、いざというときに読み戻せる確率が上がります。

まず保管は、直射日光と高温多湿を避けた場所を選び、耐火や防水のケースに収めます。加えて、同じ場所に全部を置くと火災や水害でまとめて失うため、少なくとも一組は別の場所に保管するオフサイトを検討します。JPCERT/CCも、定期的なバックアップと世代管理を行い、オリジナルとは別のネットワークにバックアップデータを保管することを勧めています。世代管理をしておくと、感染に気づく前の古い時点まで遡って戻せます。

次に運用で欠かせないのが復旧テストです。バックアップは取っただけでは意味がなく、有事の際に実際へリストアできるかを確かめて初めて役に立ちます。半年に一度など間隔を決めて、別の端末で本当に読み戻せるかを試し、媒体の劣化や書き込み不良に早めに気づけるようにします。

コールドバックアップ媒体を選ぶ前に確かめること

  • 上書きされにくさを優先するか、大容量を優先するかで媒体の系統を決めた
  • 光学メディアを選ぶなら、保存データ量に対する必要枚数と対応ドライブを確認した
  • M-DISCなど長期保存媒体を選ぶなら、保管環境と定期的な読み出し検証まで計画した
  • 外付けHDDの取り外し運用なら、書き込み後に必ず取り外す手順と複数台のローテーションを決めた
  • 書き込み後に読み戻して照合(ベリファイ)できる手段を用意した
  • 3-2-1ルールに沿って、複数世代と複数媒体と遠隔地保管を組み合わせる前提を持った
  • 半年に一度など間隔を決めて、実際にリストアできるかの復旧テストを行う計画を立てた

あわせて読みたい

ランサムウェア被害からの復旧とバックアップ設計。3-2-1とイミュータブルで「戻せる」備えをつくる

まとめ

ランサムウェアに強いコールドバックアップは、書き込んだあとにネットや端末から切り離して保管する運用が土台になります。上書きされにくさを重視するなら追記型の光学メディアやM-DISCが、大容量が必要なら取り外し運用の外付けHDDが候補です。選ぶときは、上書き耐性と容量、長期保存性、書き込み速度と対応ドライブ、書き込み後の検証、保管性という六つの軸で見ていくと過不足なく選べます。ただしコールド媒体は単体では万能でなく、3-2-1ルールに沿って複数世代と複数媒体と遠隔地保管を組み合わせ、実際に読み戻せるかの復旧テストを続けてこそバックアップとして機能します。取り外し運用は抜き忘れれば意味がなくなるため、書き込み後に取り外す習慣まで含めて備えておくことが、いざというときに戻せる備えにつながります。

JPCERT/CCのランサムウェア対策特設サイトでは、ファイルやシステムの定期的なバックアップを実施し、世代管理を行うこと、オリジナルとは別のネットワークにバックアップデータを保管することが勧められています。感染後の復旧では、バックアップが残っていればそこからデータを復元することが第一の選択肢として示されています。

出典・参考

この記事をシェア

関連する記事